図面から見た芝川ビル ~ファサード編~
近代建築は、建物それ自体もさることながら、その”図面”もとても魅力的です。
現在のようにコンピューターがない時代、図面は手描きで作成されていましたが、細部装飾やタイルの割付まで描く建築家の圧倒的な筆力は我々を驚かせ、また彩色された透視図は名画のように美しく、思わずため息が漏れてしまいます。
今そこにある建物さえ上手に描けないのに、まだ見ぬ建物をあんなにリアルに描くなんて・・・と驚嘆せずにはいられません!
* * * * *
さて、芝川ビルにも30種近い青焼きの図面が残っており、実は数年前にはデジタル化も行っています。
▲図面表紙(F01_001_001)
これらの図面には訂正の書き込みも多く、実際と異なる部分もありますが、細かく見るととても貴重な情報がたくさん詰まっています。
▲初回は「PL.16 主入口部詳細」(資料:F01_001_042)から芝川ビル正面の外観の細部についてご紹介いたします。
* * * * *
◇まずはこちら、入口上部から。
①瓦について「チョコレート色 伊太利瓦」との記述があります。イタリア瓦とは半円と溝を組み合わせた断面をもつ瓦ですが、実際に使用されたのは大正末に日本で流行していたスペイン瓦でした。
②「淡褐色フェースド・ブリック」とあります。ブリックとはレンガのこと。実際は釉薬のかかったタイルが使用されているようですが、化粧レンガを使う計画があったのでしょうか。
③「淡褐色タイル張」と記載されています。
④窓枠の様子も現在とは少し異なりますね。
◇続いては入口上部の装飾です。
龍山石を使用した装飾。空襲で焼夷弾の直撃を受けたとも言われており、現在は劣化も進んで装飾の詳細がわからなくなっていますが、竣工時の写真から当初の様子を伺い知ることができます。
これを見ると、図面から少し変更されているのがわかりますね。
◇そして入口両脇にある小窓。
壁が厚いので見落としてしまいがちですが、この窓にはマーブル模様の美しい色硝子が使われています。図面「PL.17 西立面一部詳細」によると窓外側には「鋳物格子」が嵌め込まれていた模様です。
竣工当時の写真を確認すると、確かに格子があったことを見てとることができます。
この小窓には外開きの鉄扉がついているのですが、この格子は鉄扉の更に外側に設置されていたのでしょうか。*)
◇最後は正面玄関入口とその周辺です。
▲入口ドアの様子。図面には「真鋳金物イブシ仕上」の装飾が見られ、現在以上にとてもデコラティブ!
ドア周りの龍山石による装飾はまさに図面通りですね。階段に使用されているのは「御影石」とあります。
▲こちらは玄関扉部分を上から見た図面です。入口に設置された鉄扉が壁中に収める引戸式のものとして計画されていることが伺えます。
※変更後の図面を確認すると、ドアは装飾のないシンプルなものに、鉄扉も現在の折畳み式のものへと変更が加えられています。
* * * * *
以上、如何でしたか?
二次元の図面と三次元の建物では印象も随分と異なると思われませんか?
図面を見てから建物を見ると、特に芝川ビルの”厚み”と”彫りの深さ”を改めて実感させられました。
街中に建っている建物と違い、建物の誕生以前に描かれた図面を目にする機会はなかなかありませんが、今後はこの建物語でも少しずつご紹介していきたいと思っています。
* * 追記 * *
*)後日確認したところ、鉄扉の外側に「鋳物格子」を切断したとおぼしき跡を発見しました。
この跡は、当初の予想通り開いた鉄扉の更に外側に残っていました。
つまり、格子の内側で(外開き)鉄扉の開閉が可能だったという訳です。
これは1m近い壁厚があってこそ。
それにしても、鉄扉があれば防火はもちろん、防犯の目的も満たしてくれるでしょうに、その外側に更に格子をつけたのは、”装飾”が目的だったのでしょうか・・・?
※図面の無断転載は固くお断りいたします。
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